森を考える ~ソロー通信~ 第7号

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]栃木編 連載第2回:栃木県の木材取引の現場では取引価格の安定化に向けた取り組みが始まっている。

太田原木材共販所の田中所長

県土の約55%を森林が占める栃木県。
充実した森林資源を最大限に活用するため、従来の間伐中心の林業から、「伐って、植えて、育てて、伐る」皆伐中心の循環型林業への転換が進んでいます。しかし、素材生産が増加傾向にありながら、取引価格が不安定という大きな問題を抱えているのが現状です。その原因を探るため、木材取引を行う原木市場を訪れました。
野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)

  • 平成28年に森林整備加速化・林業再生基金事業の適用を受け最新機の原木自動選別機が導入された貯木場
  • 栃木県北東部の八溝山系の山で伐採される「とちぎ八溝材」。目がつまり、色もよく、構造材として最適。
入札販売から協定販売へと転換し採算割れしない安定した取引価格を実現

 平成28年度より「とちぎ森林創生ビジョン~林業・木材産業の成長産業化と多様で元気な森林づくり」を掲げ、皆伐中心施業を促進し、素材生産量全国13位、関東甲信越地域1位と高い水準を誇る栃木県。用途別でもA材(製材用)が約90%を占めるなど(※1)、素材生産において量、質ともに地域をリードする存在になっています。
  しかし、素材の取引価格の推移(図1参照)を見てみると、梅雨から夏場にかけて大きく値崩れし、秋から冬にかけて急騰するなど、季節毎に価格の乱高下が激しく、価格が非常に不安定という大きな問題を抱えていることがわかります。
  素材生産において、これほど高い水準を保ちながら、どうしてこのような問題が生じるのでしょうか。
  その原因と安定取引に向けた取り組みを探るために、栃木県森林組合連合会が運営する木材共販所(※2)のひとつ、大田原木材共販所を訪れ、所長の田中幸夫(57歳)さんにお話を伺いました。
「原木市場は原則月に2回行っています。共販所の区域内にある大田原、那須塩原市、那須町、那須南の4つの森林組合を中心に、民間の素材業者や個人などから持ち込まれた素材を原木自動選別機で選別し、入札販売をしています。県内外約320社の登録業者のうち市に参加するのは毎回30社程でしょうか。優良材を求めて、岐阜や秋田からも参加しています」。さらに、取引価格について伺うと、「以前は、スギ柱材で高い時は15,000円~16,000円、安い時は8,000円~9,000円と約2倍近い開きがありました」。入札方式では、価格決定権が買い手にあること、素材生産の約90%をA材(製材用)が占めるため、製材需給によって価格が翻弄されてしまうことが原因と考えられます。そこで価格安定のための対策として、平成24年10月より、入札販売に加え、共販高額買受上位10社(※4)に対して協定販売(※5)による取引がスタートしました。その効果を伺うと、「価格が落ち込んでも10,000円を割ることがなくなり、平均して13,000円~14,000円位に安定しています。素材を出荷しても採算割れをすることもなくなりました」。協定販売の導入は、取引価格の安定に繋がっていることがわかります。
  さらに、栃木県では、現在の素材生産量40万㎥を平成32年までに1.5倍の60万㎥に増やす目標を掲げています。今後、素材生産量を増やすためには、取引価格の安定はもちろんのこと、製材品の需要を増やすことが必要不可欠です。そこで「需給のミスマッチを減らすために、需要に応じて木材の供給ができる体制を整えています」と田中さんが話すように、素材生産の中心的存在である森林組合と製材業社や工務店をつなぐ木材共販所は、需給マッチングのための情報発信拠点としての役割を求められています。
  このように、協定取引の促進と需給のマッチングという二つの観点から取引価格安定させることが、今後、林業・木材産業を成長産業へと躍進させるためにますます重要になってきます。

※1 茨城はA材 78%、千葉はA材 60%(出典:H27 木材需給報告書「需要部門別素材生産量塁年統計」より)
※2 鹿沼木材共販所、矢板木材共販所、大田原木材共販所がある。
※3 当初は 3カ月毎に価格を見直していたが、現在は1年間同価格で販売している。
※4 共販高額買受ベスト10に変動があるため、県環境森林部と協議の元、平成29年10月より11業者に変更。
※5 競争による価格の下落を防ぐために、販売価格について協定を結ぶこと。当初は3カ月毎に価格を見直していたが、現在は1年間同価格で販売している。

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]千葉編 連載第4回:整備の遅れる千葉の人工林 林業再生の鍵を握るのは?

間伐作業を終えた現場に立つ河内さん。ブルガリアで生まれ、千葉県市川市で育つ。高校卒業後、長野県の林業事業所に就職。
その後、千葉県にUターンし、千葉県森林組合安房支所勤務を経て、2010年河内林業を立ち上げる。

人工林の高齢級化が全国平均より早い千葉県(千葉県森林・林業統計書参照)。森林面積は減少しているものの、蓄積は年々増加し、本格的な利用可能の時期を迎えています。
さらに、私有林率が89%と全国2番目に高く(第85回千葉県森林審議会資料参照)、小規模所有面積がほとんどで、集約化と機械化の遅れ、木材価格が低迷するなど、森林所有者の林業経営意欲も低迷しています。そんな状況の中、人工林の再生に取り組む2つの事業体を訪れました。
野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)

  • 小型のグラップル、バックホウ等の林業機械が通れる幅の作業道をつくりながら伐木、はい積みをしていく。
  • 伐採した香取すぎの前で話す、香取市木材協同組合理事長の亀村さん(右)と平野林業株式会社の平野栄一さん(44歳=中央)、香取裕明さん(31 歳=左)。「林業は危険な作業も多く、常に人材不足ですね。でもとてもやりがいのある仕事です」と、平野さん。
  • 紅紫色という鮮やかな赤身が特徴の香取すぎ。実生で種から育つので、溝腐れなどの病気にも強い。
目指すは少数精鋭集団。補助金に頼らない小規模林業経営を目指す若き経営者の挑戦

 千葉県南部の南房総市を拠点とする河内林業(※1)は、若い世代が意欲的に取り組む認定事業体(※2)です。
  今回は、千葉県森林組合からの依頼で間伐作業を行う勝浦市の森林を訪れ、経営者の河内雅寛さん(38歳)に河内林業が目指す林業についてお話を伺いました。
「補助金に頼らない、自立した林業が目標です。小規模な私有林が多いという千葉の特性に合わせ、小さく、でも効率よく、きちんと利益を出すことを目指しています。もちろん、ただ利益を出すことを目標にするなら、大型機械を導入し、大規模な皆伐をすればいいのでしょう。それよりも山を整備、再生し、5年後、10年後に利益を出せる山として、山主さんに返していくことが、衰退した千葉の林業を再生させるために大切だと思っています」。しかし、現状はまだまだ厳しいと言います。「植林後、約50年位全く手入れされてこなかった山も多く、伐採しても売り物にならないことも多いですね」。しかし、悲観してばかりもいられません。「林業は、50年、100年先の未来を見据えた難しい仕事です。大変なことも多いですが、だからこそ楽しく、やりがいを感じます」
  最後に、河内さんの目標とする、補助金に頼らない林業が実現できるのは何年後か尋ねてみると、「10年後には実現したい」との答えが返ってきました。これからの千葉の林業は、若い力がきっと変えていく、そんな明るい未来を確信しました。

地元の良材「香取すぎ」の活用を通して、地産地消を目指す香取市木材協同組合の取り組み

 千葉県北部に位置する下総(しもふさ)地区。かつては江戸まで100kmという地の利を生かし、良質の松や杉の供給地として栄えましたが、戦後、輸入材の需要が増え、松食い虫による松林の消滅など衰退の一途を辿ってきました。そこで、古来より良材として知られた下総杉を、ちばの木認証材「香取すぎ」としてブランド化し、新たな需要を増やすことで、森林を再生し、地域や環境に貢献しようと奮闘しているのが、香取市木材協同組合(※3)です。
  今回は、理事長の亀村俊二さん(59歳)に、組合員の平野林業株式会社が手がける、香取すぎの新月伐採(※4)の現場を案内していただきました。
  「香取すぎは、艶のある紅紫(こうし)色が特徴で、冬目が細く、曲げ強度も強い良材です。原木市でも、サンブスギほどの知名度はありませんが、他の杉よりも2割から3割の高値がつきます」。さらに「香取すぎを利用して新築木造住宅を建てれば、千葉県と香取市の補助金を利用できるので、施主は最大50万円の助成を受けられます」と、亀村さん。香取すぎを活用することは、地産地消に繋がり、森林の再生だけでなく、消費者にとってもメリットが大きいのです。
  このように香取すぎの活用を通して、地域経済を活性化させる地道な取り組みが、千葉県の林業を再生させる原動力に繋がっています。

※1 従業員は30代2名、40代2名、60代1名の5名。
※2 「林業労働力の確保の促進に関する法律」に基づき、5カ年間の「改善措置計画」を作成し、千葉県知事の認定を受けた事業体をいう。現在8事業体が認定を受けている。
※3 平成17年設立。組合員16事業所。
※4 樹木を冬季の新月直前に伐採し、谷側に倒し、比較的長い期間林内に放置する方法で、燃えにくい、腐らない、反らない、虫がつかないという効果があると言われている。

[今月森人]片岡信夫さん かたおかのぶお 53歳(栃木県芳賀郡市貝町)

「お茶炭の伝統を通して、地域の暮らしを支えてきた広葉樹の林業を守り、この里山ならではの営みを次の世代につないでいきたい」

  • 窯の火入れから予備乾燥・着火・炭化の約7日間を経て、お茶炭が出来上がる。
  • クヌギ畑を手入れする信夫さんの父7代目の片岡一郎さん。
  • 各地の茶道家に愛され続けている「下野菊花炭」。
茶道の世界に欠かせない「下野菊花炭」の産地として知られる栃木県芳賀郡市貝町。
古くから受け継がれてきた炭焼きの伝統を今に伝える「片岡林業」の8代目、片岡信夫さんを訪ね、この地域ならではの林業の歩みと課題について伺いました。

――地域でお茶炭の生産が広がった背景について教えてください。

「市貝町は関東平野から八溝山地にかかる丘陵地にあり、なだらかな傾斜の林地は日当たりがよく、土壌の黒ボク土も養分を保ちやすいので、クヌギの生育に最適です。幹はシイタケの原木、枝は炭、葉は肥料として利用されてきました。住民のほとんどは農家で、夏は農作物を作り、農閑期は冬場の仕事として、地域のクヌギを用いた炭焼きを始めました。それをお茶炭として販売することで、少量で利益が上がる経営が広がり、産地化したのです。町には大正時代から続く『市貝町木炭組合』があり、全盛期は100人以上の組合員が所属していました。先代の一郎が若い頃は原木林が豊富だったので、山の麓に仲間と泥窯を作り、作業が終わると窯をつぶして次の山に移動していたそうです。当時は伐採業者も多く、炭の生産に専念することができました」

――「下野菊花炭」の特徴は?

「樹皮が密着していて、切り口が菊の花のように美しく、火つきや火持ちの良いことです。菊模様はクヌギならではの特徴で、コナラやほかの広葉樹ではきれいな『菊花』になりません。茶道では、炭の燃え方や燃えつきるまでの時間も大切なので、伝統の技術を用いて、常に同じ品質のものを提供し続けることにこだわっています」

――現在は原木林の育成も?

「昔はどの家庭でも炭を燃料として使っていましたが、石油の時代に変わってから需要が減り、山に従事する人が少なくなったため、放置林が増え、炭用の原木が不足しています。うちでは20年ほど前から、2.3ヘクタールの林地で、クヌギを育て始めました。一般的に炭用のクヌギは、6、7年のサイクルで伐採、更新できます。伐ってあげれば病気にもなりませんし、再び芽が出て新しい木が育ちます。広葉樹の林業がこの土地で長く受け継がれてきたのは、この里山の土地や暮らしに合っていたから。それぞれの地域に根づいた林業の再生が必要です」

――技術の伝承にも取り組まれていますか?

「平成21年に、近隣の生産者から技術指導の要望を受け、彼らとともに『芳賀地区木炭生産者組合』を立ち上げました。生産安定のため、林地所有者の協力を得て、原木林の育成を軸に活動しています。将来を見据えて、新規参入者も受け入れています」

――今後の展望についてお聞かせください。

「地域の子どもたちと『私の故郷の森(仮称)』を作る構想があります。地元の幼稚園生にドングリを拾ってまいてもらい、その子たちが小学生になったら、芽が出たものを山に植えてもらう。中学卒業の時期に、育った木を私たちが買い取り、伐採した木から芽が出たら、成人式までに再び買い取り、木はお茶炭に加工して茶席にあげる。この循環を通して、子どもたちがいつでも里帰りできる生きた森を作り、里山の文化と産業、暮らしを次の世代につないでいけたらと思っています」

  • ソロー通信千葉・茨城・栃木版 第6号