
平成28年に森林整備加速化・林業再生基金事業の適用を受け最新機の原木自動選別機が導入された貯木場
栃木県北東部の八溝山系の山で伐採される「とちぎ八溝材」。目がつまり、色もよく、構造材として最適。
平成28年度より「とちぎ森林創生ビジョン~林業・木材産業の成長産業化と多様で元気な森林づくり」を掲げ、皆伐中心施業を促進し、素材生産量全国13位、関東甲信越地域1位と高い水準を誇る栃木県。用途別でもA材(製材用)が約90%を占めるなど(※1)、素材生産において量、質ともに地域をリードする存在になっています。
しかし、素材の取引価格の推移(図1参照)を見てみると、梅雨から夏場にかけて大きく値崩れし、秋から冬にかけて急騰するなど、季節毎に価格の乱高下が激しく、価格が非常に不安定という大きな問題を抱えていることがわかります。
素材生産において、これほど高い水準を保ちながら、どうしてこのような問題が生じるのでしょうか。
その原因と安定取引に向けた取り組みを探るために、栃木県森林組合連合会が運営する木材共販所(※2)のひとつ、大田原木材共販所を訪れ、所長の田中幸夫(57歳)さんにお話を伺いました。
「原木市場は原則月に2回行っています。共販所の区域内にある大田原、那須塩原市、那須町、那須南の4つの森林組合を中心に、民間の素材業者や個人などから持ち込まれた素材を原木自動選別機で選別し、入札販売をしています。県内外約320社の登録業者のうち市に参加するのは毎回30社程でしょうか。優良材を求めて、岐阜や秋田からも参加しています」。さらに、取引価格について伺うと、「以前は、スギ柱材で高い時は15,000円~16,000円、安い時は8,000円~9,000円と約2倍近い開きがありました」。入札方式では、価格決定権が買い手にあること、素材生産の約90%をA材(製材用)が占めるため、製材需給によって価格が翻弄されてしまうことが原因と考えられます。そこで価格安定のための対策として、平成24年10月より、入札販売に加え、共販高額買受上位10社(※4)に対して協定販売(※5)による取引がスタートしました。その効果を伺うと、「価格が落ち込んでも10,000円を割ることがなくなり、平均して13,000円~14,000円位に安定しています。素材を出荷しても採算割れをすることもなくなりました」。協定販売の導入は、取引価格の安定に繋がっていることがわかります。
さらに、栃木県では、現在の素材生産量40万㎥を平成32年までに1.5倍の60万㎥に増やす目標を掲げています。今後、素材生産量を増やすためには、取引価格の安定はもちろんのこと、製材品の需要を増やすことが必要不可欠です。そこで「需給のミスマッチを減らすために、需要に応じて木材の供給ができる体制を整えています」と田中さんが話すように、素材生産の中心的存在である森林組合と製材業社や工務店をつなぐ木材共販所は、需給マッチングのための情報発信拠点としての役割を求められています。
このように、協定取引の促進と需給のマッチングという二つの観点から取引価格安定させることが、今後、林業・木材産業を成長産業へと躍進させるためにますます重要になってきます。
※1 茨城はA材 78%、千葉はA材 60%(出典:H27 木材需給報告書「需要部門別素材生産量塁年統計」より)
※2 鹿沼木材共販所、矢板木材共販所、大田原木材共販所がある。
※3 当初は 3カ月毎に価格を見直していたが、現在は1年間同価格で販売している。
※4 共販高額買受ベスト10に変動があるため、県環境森林部と協議の元、平成29年10月より11業者に変更。
※5 競争による価格の下落を防ぐために、販売価格について協定を結ぶこと。当初は3カ月毎に価格を見直していたが、現在は1年間同価格で販売している。