森を考える ~ソロー通信~ 第6号

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]栃木編 連載第1回:「伐って、植えて、育てて、伐る」の循環型林業の促進。間伐中心から皆伐中心の林業へ。

太郎山から望む男体山。

首都圏北部に位置し、東北自動車道や北関東自動車道など東京と東北・北海道を結ぶ南北軸と、太平洋・日本海ゲートを結ぶ東西軸が交差する地理的優位性を生かし、物流の拠点として大きな役割を有する栃木県。林業界においても素材生産量及び製材品出荷量が関東甲信越地域において常に1位を誇るなど、地域をリードする役割を担っています。また国内有数の木材生産・流通の拠点としてのさらなる発展を目指し、循環型林業への取り組みが進められています。
野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)

※1 森林蓄積:森林を構成する樹木の幹の体積。
※2 スギ人工林の造成・保育には、植栽から50 年生までに平均で約248 万円/ha の費用を要する。(林野庁「森林・林業白書」より)
※3 栃木県林業振興課調べ

他県産材に依存しない体制づくりの“カギ”は労働力の確保と低コスト化。

森林面積 栃木県内の森林面積はおよそ35万ヘクタールで、県土の約55%を占めています。
  森林法に基づき、県の東北部に位置する「那珂川地域」、県の中央部に位置する「鬼怒川地域」、県の南西部に位置する「渡良瀬川地域」に分けられ、立木の伐採、造林、保育などの森林施業を計画的に行っています。
国有林 森林面積のうち、約37%が国有林で、その面積は約13万ヘクタールです。内訳は人工林が約26%、天然林が約68%と天然林の割合が高くなっています。
民有林 森林面積のうち約63%は民有林で、面積は約22万ヘクタールです。その内訳は人工林が約56%、天然林が約42%と人工林の占める割合が高く、人工林のうちスギが約31%、ヒノキが約21%を占めています。また人工林の平均林齢は
10齢級(46〜50年生)と高く、伐採期を迎えた森林資源が豊富であることを示しています。さらに11齢級(51〜55年生)以上が5割以上を占め、森林蓄積(※1)も毎年増加するなど、将来にわたって木材の安定供給を図るためにも「伐って、植えて、育てて、伐る」という循環型林業への転換を迫られています。
  そのためには、計画的な間伐を進めることはもちろんで
すが、さらに皆伐を促進させることが大きな課題となっています。ここで、伐採から搬出にかかる費用面を見てみると、県内林業事業体の平均的な素材生産費は、間伐施業地約6,700円/㎥、皆伐施業地4,300円/㎥(※3)というデータより、皆伐中心施業の促進は経営的な観点からもメリットが多いことがわかります。
  そこで皆伐を促進するモデル事業が創設され、新たな森林施業への取り組みも始まっています。これは、皆伐施業により、機械化の促進、さらには森林資源をフル活用し、ABC材全量を出荷できるようになることから「伐って、植えて、育てて、伐る」という循環型林業経営が可能になるのです。また、循環型林業にシフトするためには皆伐後の再造林(植えて、育てて)が必須になりますが、ここで問題になるのが、再造林のための費用と労働力です。
  例えばスギ人工林の造成・保育には、長い時間と費用が必要になり(※2)、それに携わる林業従事者の確保も不可欠です。するとそれらがネックとなり、日本各地で皆伐後に造林を行うことができず、放置されたまま荒れ果ててしまう山が多く出現するという問題も起きています。それは栃木県においても例外ではなく、皆伐後の再造林を確実に行うためには若い世代の就業者の増加及び造林・保育作業の低コスト化、苗木の安定的供給など様々な条件を整える必要があるといえます。
  今後、国内有数の素材及び製材品生産の重要拠点としての役割を果たす栃木県がさらなる発展を遂げるためにも、皆伐中心の循環型林業へ早期転換を図り、充実した森林資源を最大限に活用することが求められてます。

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]千葉編 連載第3回:千葉の山を守り再生するために、「千育千活」を目指す千葉県森林組合の奮闘。

千葉県森林組合事業課長の磯部良己さん(左)と事業担当那須章人さん(右)に案内していただいた民有林。
小社林業班が3 月に間伐、後ろの大径木は樹齢300 年になるというスギ。

千葉県内には、千葉県森林組合、千葉市森林組合の2団体がありますが、全国の組合数平均13に比較しても、大阪についで少ない数になっています。
組合の変遷を見てみると、組合加入者数は40年前の6割程に減少し、組合数も昭和50年の40組合から減少の一途をたどり、平成18年には14組合が合併し、現在の2組合になっています。
野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)

  • 非赤枯性溝腐病に蝕まれたサンブスギ林は皆伐を行う。その後、植栽、下刈りなどの手入れを行いながら、長い年月をかけて保育し、成長を見守る。
  • 「教育の森」として県に登録された森林。間伐体験や職場体験など、子供たちが森林に触れるきっかけとなっている。
森林整備の中心的な担い手である森林組合の変遷とこれからの役割。

 森林組合数及び組合員数は全国的に減少傾向にあり、各地域において、合併及び再編成が行われています。これは昭和38年の森林組合合併助成法、平成14年の企業組織再編税制により合併を積極的に促進したことが要因の一つになっています。

 さらに千葉県における要因を見てみましょう。合併前の平成15年度「森林・林業統計書」によると払込済出資金額が100万円以下の組合が8組合あるなど、組合間の経営規模、事業展開に大きな格差があったことがわかります。また、千葉県の民有林における組合員面積及び組合員一人当たりの所有面積 (※)は全国的に見ても非常に低い数値で、その中で事業収益を上げ、経営基盤を強化するには、組合施設の統廃合や人件費の削減、森林整備事業においても小規模施業から集約化施業への変換を図るためにも、森林組合を合併及び再編し、大幅な事業改善を図る事は必然の流れだったと言えるでしょう。

 今回は、平成27年に組織再編を行い、現在2支所(北部、南部)、2事業所(北総、安房)体制で運営を行い、千育千活(千葉で育った森の木を千葉の生活に活かす)」を理念に森づくりのプロとして、森林管理、技術指導、森林整備など幅広く活動する千葉県森林組合にお邪魔し、森林整備など組合の事業について、事業担当の那須章人さん(32歳)に話を伺いました。

 「山主さんが何に困り、何を望んでいるのかを理解し、将来どのような山にしていくのかを明確にし、プランを提案します」。しかし、現在は山主さんにとって山は魅力を失っているといいます。「森林整備を行うには国や県の補助金に頼らざるを得ず、木を切ってもほとんど収入にはなりません。そのため山に対する関心も低くなり、手を入れる必要性を感じなくなっている山主さんも増えています。山に生産性がなく、収入につながらないのが何よりの原因です」。それでも組合での仕事はやりがいがあるといいます。「非赤枯性溝腐病に蝕まれ荒れた森林は皆伐後、植栽、下刈りを、手入れの遅れた山林は間伐を行い、苗木を植え、手入れを続けることで、山の再生につながることが何よりの喜びです」。

 さらに、近年力を入れているのが、県産材の利用促進です。平成27年に県内の工務店6社とともに「ちばの木づかい協議会」を誕生させました。木材情報(産地・素材)が明らかで確かな品質の「ちばの木認証材」を森林組合が直接工務店に納入し、その認証材を使用した「ちばの木の家」を提供することで、県産材の安定的な供給を促し、計画的な森林整備を促そうというものです。事業を進める事業課長の磯部良己さん(52歳)は、「まだ認証材が少なく、取扱量も少ないのですが、間伐が2回、3回と進むことで、森林が再生し質のいい材が多くなれば、認証材の供給も安定します。そのためにも荒れた森林を循環する森に再生し、誰もが気持がいいと感じる山を増やすのが一番の目標です」。 

 千葉県の森林整備のほとんどを担う森林組合が、今後も継続的に森に手を入れていくためには、山主の意識変革、協力姿勢が不可欠です。これは、千葉県に限らず、全国的な森林組合における課題でしょう。

※千葉県の組合員一人当たりの所有面積はおよそ2.3 ヘクタール。全国平均の7ヘクタールを大きく下回る(林野庁 森林・林業統計要覧2016より)。

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]茨城編 連載第6回:県内唯一の森林科学科を有する 大子清流高校が未来の林業の担い手を育てる。

大子清流高校の実習林で、江幡先生の話を聞く森林科学科3年生の生徒たち。

茨城県の林業を支える林業従事者は減少の一途を辿り、さらにその半分以上を50歳以上が占めるという高齢化が進んでいます。
しかし近年、10代から40代の占める割合が少しずつ増えるなど、若返りの傾向が見られるようになりました(国税調査より)。そんな中、将来の林業従事者を育成する教育現場でも新たな取り組みが始まっています。
今回は、久慈郡大子町の「茨城県立大子清流高校」を訪れました。

野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)
  • 林業機械などが揃う木工室。先生の指導のもと、教室で使う椅子を作る木工加工班の生徒たち。
  • 学校の敷地内に東屋を建てる建築班。設計から左官作業まで、先生と生徒たちとで、およそ2年間かけて作り上げる力作も、まもなく完成する。
  • 里親制度の今後について話す星さんご夫妻。
命を育む森林の重要性や森林がもたらす資源について実体験として学ぶ場。

 森林科学科では、1年生5名、2年生13名、3年生11名の合計29名が森林経営、測量、林産加工、森林環境などの専門科目を学ぶほか、下草刈り、森林伐採などの実習も行っています。さらに、海外研修や木材会社、バイオマス発電所の見学など、現場で学ぶ機会も豊富にあり、地域と連携し、将来、森林・林業のスペシャリストとして活躍できる人材を輩出する重要な役割を担っています。

 今回は、森林科学科3年担任の江幡和士先生(40歳)に、3年生の課題研究の授業を案内していただきました。 敷地内にある演習林や実習棟では、建築班、木材加工班、オオクワガタ班、作物班がそれぞれの研究テーマに従い専門的な研究を行っていました。どの班を覗いても生徒の技能レベル、実習に対する意識の高さに驚きました。さらに、将来の進路について聞いてみると、「森林科学科に入ってから、専門的な学習や実習を行う中で、森林やものづくりに対する興味が強くなり、将来も林業やものづくり関連の仕事に就きたい」という回答がほとんどでした。卒業後の進路状況について江幡先生に伺うと、「進学、公務員採用、民間企業就職とどの分野においても、森林科学科で学んだ強みを生かした進路を実現しています」とのこと。森林や林業に触れた実体験が、卒業後に林業関係の仕事に就くという将来像を描くきっかけとなり、将来の職業選択に大きな影響を与えていることは言うまでもありません。

 今後、林業従事者を増やすためには、できるだけ早い時期から、森林や林業に触れる機会を作ることが必要なのかもしれません。

全国から生徒を受け入れる大子清流高校森林科学科とそれを支える里親制度。

 平成20年度より森林科学科への入学を希望する生徒を全国から募集し、大子町まちづくり課と連携し、他県から入学した生徒を家庭で受け入れる里親制度もスタートしています。全国募集を行う公立高校は79校ありますが、そのうち林業関係は、大子清流高校を含めて2校しかありません。さらに、全国募集を行う高校のほとんどが寮や下宿の斡旋のみなのに対し、里親制度やホームステイを行うのは数校のみです。このように全国でも珍しい里親制度のある森林科学科の全国募集ですが、今年、初めて二人の生徒が入学し、そのうちの一人が里親制度を利用しています。今回、大子町より委託を受け、大子清流高校初の里親として生徒さんを受け入れている、星國晴さん(71歳)、しんさん(65歳)ご夫妻に話を伺いました。

 「高校から里親として生徒の受け入れに協力して欲しいとの相談があり、私も以前は教員として生徒指導に長く関わっていたので、協力しようと決意しました。生徒さんも志を持ってここに来ることを決意したのでしょうから、精一杯サポートしようと思いました」と國晴さん。しんさんも「私も社会貢献に関心があり、何か役に立てることがあるならやってみようと思いました」と口を揃えます。実際の生活にはどのような変化があったのでしょう。「夫婦二人だけの時とは生活も一変し、食事作りなどの苦労もありますが、成長を間近で感じられることが何よりの楽しみ。生活にハリもでました」とご夫妻。生徒さん自身も、豊かな自然環境での暮らしを満喫しているようで、「将来大人になった時にここでの生活が役に立ったと思ってもらえれば嬉しい」と星さん。

 大子清流高校の森林科学科が全国募集を行い、それを地域が支える里親制度はようやくスタートしたばかりです。このように、学校が地域と連携し、林業と若い世代を結ぶパイプ役としての役割を果たすことで、若い世代が林業に対する認識を新たにし、今後の林業を支える人材の育成に繋がっていくのではないでしょうか。

ソロー通信第6号 2016年12月発行

  • ソロー通信千葉・茨城版 第5号