森を考える ~ソロー通信~ 第5号

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]千葉編 連載第2回:千葉県における木材取り引きの現状。スギ、ヒノキの原木価格は全国平均の約半分。製材品の価格も低迷。その原因を市場から探る。

民間経営の袖ヶ浦木材センター。セリに参加する人が見やすいよう丸太を低く積んでいる。

千葉県内の森林面積は約16万ヘクタール。県土の約3分の1を占めています。そのうちのおよそ3割が、樹齢41年以上の成熟期を迎えたスギ、ヒノキの人工林です。
木の体積を表す「森林蓄積」も年々増加し続け、千葉県は成熟した森林を活用する時代を迎えています。
しかし、千葉県の原木価格は、全国平均と比較して約半額近くまで値が崩れるという深刻な事態となっています。この問題を探るため、木材の取引を行う2つの市場を訪れました。
野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)

  • 「(有)袖ヶ浦木材センター」社長の桐谷晃一郎さん。径級ごとに細かく選木、1本1本の丸太の直径をチョークで書いていく(有)袖ヶ浦木材センター」社長の桐谷晃一郎さん。径級ごとに細かく選木、1本1本の丸太の直径をチョークで書いていく。

※1.椪積(はいづみ):仕分けされた原木を、材の長さや直径区分ごとに山に積み上げること。

※2.検知:丸太の切り口の細い方の直径を測ること。

データが明らかにする林業を営む厳しさ。

 現在、千葉県内で森林の保育作業を行う林家の数は、この20年間でおよそ4分の1にまで減少し、その作業を森林組合などの林業事業体が補っているという構図になっています。十分に成長した木を、素材生産業者が伐採し、原木市場、そして木材市場を通して、私たち消費者のもとに届くまでの流通の現場を知るため、今回、千葉県袖ヶ浦市で原木市場を運営する「(有)袖ヶ浦木材センター」と、東金市で原木市場および製材品市場を運営する「千葉県木材市場協同組合」で、その取引の様子を伺ってきました。

民間の小規模事業者だからこそできる、人の目と手による丁寧な「原木市場」の運営。

 袖ヶ浦市の「(有)袖ヶ浦木材センター」は、民間で原木市場の経営を行っています。昭和53年に、社長の桐谷晃一郎さん(44歳)の祖父が木更津で創業。平成11年に現在の地に移転したのをきっかけに、晃一郎さんも事業を手伝うようになり、祖父の引退後、経営を引き継ぎました。晃一郎さんの父親も市原市で「桐谷木材店」を経営しています。

 主な事業は、原木の委託販売及びそれに付随する業務で、出荷者に対しての仕分けおよび椪はいづみ積(※1)手数料、売上手数料、購入者に対しての積み込み手数料により経営を行っています。

 「原木市場は、原則月2回開催しています。扱う原木は、県内の素材生産業者約10社が持ち込む県産材で、スギが7〜8、ヒノキが2〜3の割合です。原木の仕分けの精度を上げることにこだわりをもって作業しています。細かく分類し、見やすく配列することで、製材業者も買いやすくなり、それに伴い単価も上がるように工夫しています。検知(※2)も、測定に狂いが生じないよう目線の高さで行うなど、正確さに努めています」と桐谷さん。原木がサイズや長さごとに細かく仕分けられ、整然と配置されている様子からも、人の目と手を通した丁寧な仕事を垣間見ることができます。しかし、こうした努力もあまり効果が得られていないと桐谷さんは語気を強めます。

 「ここ数年、原木市場へ参加する製材業者は、かなり減少しています。登録している業者は約20社ほどですが、市場に参加するのは、毎回その半分程度。製材業者の高齢化が進み、廃業してしまう業者も多く、業者の数も減っていること、セリに参加しなくても、ここに来れば必要な時にいつでも購入できることも原因かもしれません」。

 こうした状況を打破しようと、袖ヶ浦木材センターでは、現在、新たな取り組みを行っています。

 「素材生産業者と製材業者への情報発信を密にしています。売れ筋の商品をアナウンスすることで、必要なものを必要なだけ生産し、販売ができるよう、需要と供給のバランスがうまくとれるよう努めています」と桐谷さん。

 大型機械を導入し、大量の商品を扱う大規模な原木市場とは対照的に、民間による小規模な運営だからこそできる、丁寧な仕分けや選別、取引業者との信頼関係を重んじる経営など、千葉県の林業を根底から支えようという確かな思いを感じます。

 「現在、千葉の原木の価格は下落を続け、先行き不安である一方、素材業者などは世代交代がうまく進み、若手も増えてきています。また、大型の林業機械の導入も他県に比べて非常に遅かったのですが、ようやく導入も始まりだしました」と、桐谷さん。千葉の林業は、決して暗い話題ばかりではないようです。これからの林業を支える若い力の台頭が期待されています。

  • 左/「千葉県木材市場協同組合」は、原木市場と同じ敷地内に製材品市場を併設している。
    右/千葉県内で最大の原木市場。年間約15,000㎥の丸太が取引されている。奥が製材品市場棟。
下落する千葉の木材価格と抱える問題点。

 東金市の「千葉県木材市場協同組合」は、県木材組合連合会と県木材森林組合連合会が母体となり、材木店や製材所が出資し、昭和36年に設立されました。現在の組合員数は431名。原木・製材品市場の経営および、木と住の情報館「モクイチ」の運営を行っています。

 常任理事の小安司(60歳)さんに、原木市場の運営状況について伺いました。

 「原木市場は毎週木曜日に開催しています。定例市に参加する製材業者は年々減少し、以前は50社程でしたが、現在はその半分程度です。扱うのは、県内の伐採業者の出品材が主で、国有林や県有林、一部造園業者などによって搬入された材で、スギが8割、その他ヒノキ、サワラなど約20種類以上です。価格は昔と比べるとかなり安く、スギの溝腐病による製品価値の低下も、素材価格の下落に拍車をかけています。また、スギとヒノキの価格差が小さいのは千葉の特徴かもしれません。一般的に価値が高いとされるヒノキですが、千葉では、『ヒノキは神社仏閣などに使用する材なのでおそれおおい』ということから、使用を控えてきたようです。また、材質的に硬いので、釘を打つときに板などが割れてしまうなど手間もかかり、使いたがらない職人もいたと聞いています」

 さらに、素材価格の下落の原因として考えられるのは、原木市場に出荷される素材の品質の問題です。木材を品質や用途で分類した「需要部門別素材生産量累年統計」(木材需給報告書)」による、製材用(A材)、合板用(B材)、木材チップ用(C材)の割合を千葉と茨城で比較してみると、千葉はC材の割合が高いことがわかります。買い取り価格はA材が高く、C材が一番安いので、A材の割合が低い千葉では、これに比例し、価格も低くなってしまうのです。

 では、なぜC材が多くなってしまうのでしょうか。

  • 千葉県木材市場協同組合の小安司さん。搬入される丸太を自動選別機でA材、B材、C材に仕分けている。

※3.認定事業体:「改善措置計画」(労働環境の改善、募集方法の改善、その他の雇用管理の改善及び森林施業の機械化、その他の事業の合理化を一体的に図るために必要な措置について計画)を提出しその県知事の認定を受けた事業体。

※4.KD材:(Kiln Dry Wood)乾燥機(Kiln)を用いて人工的に乾燥させた木材。 プレーナー材:電動カンナを全体的にかけた状態の木材。

認定事業体の割合が少なく、他県産材の依存率が高いことが木材価格に影響。

 千葉と茨城の認定事業体(※3)数を比較してみると、茨城は32事業体で千葉はその4分の1以下の7事業体しかありません。この違いからも、千葉において、木を伐採し、原木を出荷しているのは、林業の認定事業体だけでなく、宅地やゴルフ場、最近では太陽光パネルの敷設に関わる建築業者や産廃業者が担う割合が多くなっていると推測できるのです。つまり、「木を出荷する」というよりは、「木を処分する」といった意味合いが強く、当然、木の扱いにも影響し、その結果C材の割合が増えてしまうのです。さらにA材でもC材でも木を切り、運搬する際にかかる経費はさほど違いがないため、C材の割合が増えれば増えるほど、利益は少なくなり、切れば切るほど赤字になるという事態さえも生み出しているのです。

 木材の委託販売および共同購入により運営する製材品市場についてもやはり問題は根深いようです。

 「ここでは製材品も扱っており、県産材に限らず、四国・九州・東北、さらには外材も扱っています。近年、セリへの参加者は年々減少してきています。引き合いの多いKD・プレーナー材(※4)が県産材には少ないというのが要因かもしれません」と小安さん。外材や他県産材への依存率の高さも(「木材需給報告書 自県・他県・外材別入荷量累計統計」)、県産材の価格が不振な原因のひとつになっていると考えられます。

 このように、千葉県における木材価格の下落には、他県にはない様々な要因が絡み合い、非常に複雑で根深い問題を抱えているのです。

 しかし、小安さんは、県産材を使うことによって心身にもたらされるプラスの効果は計り知れないと言います。

 「自然乾燥させた県産材には、木材本来の香り・ツヤ・粘り・耐久性が生かせるという良さがあります。ぜひ、皆さんにも県産材を使っていただき、健康に役立てて欲しいと思っています」。

 千葉の林業を活性化するためには、林業従事者の努力だけでなく、行政による支援も必要です。そして何より、資源を利用する側の私たち一人ひとりが、問題への危機意識を持ち、地域産材を買い支えるという意識改革が、今求められているのです。

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]茨城編 連載第5回:転換期を迎える茨城の林業。若い世代が「未来を作る仕事」に新しい風を吹き込む。

鈴木木材代表の鈴木五一さん(左)と跡継ぎの翔吾さん。翔吾さんを中心に若い世代が林業を担っている。

現在、茨城の林業は、木材価格が下落を続け、林業従事者も30年前の40%ほどに減少しています。
さらに、林業従事者の半分以上を50歳以上が占めるという高齢化が進み、新規林業就業者も減少し続けています(国勢調査)。
このまま、林業は衰退の一途を辿るのみなのでしょうか?今回は、厳しい状況にありながらも若い力を中心に、新しい林業を目指し奮闘する大子町の林業事業所を訪れました。

野中典子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)

※1.「緑の雇用」事業:林業への就業を希望する人に対して、就業体験、ガイダンスを行い、3ヵ月間のトライアル雇用を経て、キャリアに応じた研修や講習を行いながらキャリアアップを支援する制度。

将来の林業従事者を増やすための様々な取り組みが行われています。

 茨城県の県土面積は約61万ヘクタールで、森林と農用地がそれぞれ約3分の1ずつを占め、林野率はおよそ31%と全国平均(67%)を大きく下回っています。

 森林面積の7割以上を占める民有林では、戦後積極的にスギ、ヒノキの人工造林が形成され、人工林率は55%に達します。

 その材積の蓄積は年々増加傾向にあります。茨城県北部は県を代表する林業地帯であり、スギ、ヒノキなどの人工林を中心に生育途中の森林があるので、間伐などの森林整備が進められています。今回訪れた大子町もその地域のひとつです。

 また、戦後は木材需要が高まり木材は高価なものでしたが、昭和35年の木材の輸入自由化を機に、外材との価格競争により材価は低迷し、林業従事者も減少を辿り高齢化が進みました。

 茨城県は、平成10年3月「茨城県林業協会」内に林業事業主の雇用管理の改善や事業の合理化、並びに新たに林業に従事しようとする人の就業を支援するために「茨城県林業労働力確保支援センター」を設置しました。林業への就業相談はもちろん、林業従事者や林業事業体を対象とした研修の実施など、林業事業主および、林業への就業希望者に対しきめ細かな支援を行っています。

 中でも、平成15年よりスタートした「緑の雇用」事業(※1)は、未経験であっても林業への就業が可能とあって、若い世代を中心に職業選択のひとつとして認知されつつあり、新たな林業の担い手を生み出すための成果を上げています。

 今回は、20代が3名、30代が1名と若い世代の新規就業者を抱える「(有)鈴木木材」にお邪魔してきました。

若い力によって転換期を迎える茨城の林業。

 大子町にある鈴木木材は、八溝地域を中心に、山主から間伐や皆伐などを請け負う、地域に密着した林業事業体です。

 では、鈴木木材では、現在、どのような事業を行っているのでしょうか。代表取締役の鈴木五一さん(66歳)に話を伺いました。

 「私の父親が自分で材木を買ってそれを製材所に納める、素材生産業をやっていました。それがきっかけで、昭和48年に鈴木木材を設立しました。大子町も林業が盛んな地域で、林業に関わる人もたくさんいましたが、高齢化が進み、材価も下がり、従事者はどんどん減っていきました。鈴木木材もそのひとつでした。しかし、息子が戻ることが決まり、『緑の雇用』を利用して若い人材を採ることができるようになりました。従業員集めに苦労していたのに、今では地元だけでなく、東京や埼玉、宇都宮からも人が入ってくれるようになりました。『緑の雇用』制度も利用し、20代と30代、それぞれ1名ずつ研修生として就業してくれています。

 ただ、自然を相手にした厳しい仕事です。夏は暑く、冬は寒い、そして危険も多い。なかなか難しい仕事ではありますが、一人ひとり林業に熱心に取り組んでいます。今は若い人たちの力で、すごく活気づいています」と嬉しそうに話します。

  • 現代林業は高性能機械による作業効率の改善が課題になる。写真は1台で伐木、枝落とし、玉切りを行うハーベスタ。2000万円超の投資が必要。
  • 作業の効率化のため大型林業機械を積極的に導入している。
高性能機械の導入により経営の効率化・安定化へ前進。

 現在、鈴木木材の三代目として経営に携わるのは、息子の翔吾さん(30歳)。茨城県で唯一の森林学科を有する大子清流高校の前身である大子一高の森林学科を卒業後、首都圏の大学に進学。卒業後は鈴木木材の後継者として地元に戻りました。

 「父親の代になって機械を導入するようになり、これからの林業は機械化が必要だと考えるようになりました。会社に入社してから高性能林業機械の導入を検討し、機械化を進めました」。フォワーダやグラップル、ハーベスタなどの高性能林業機械を導入し、作業の効率化を図るなど経営の効率化・安定化に向けて努力したそうです。

 さらに、原木市場を通さず独自の取り引き先を開拓したのも翔吾さんでした。

  • 20代、30代の若手スタッフが揃うと休憩時間の会話も弾む。

※2.立木買い:一般的には、「出でこく石」と言われ、伐り出した後の材木から量を算出する方法で価格を計上するのが主流であるのに対し、「立木買い」は、森に立っている樹木の径を測って、伐り出す前に精算する方法。伐る樹木を決めてから伐採を行うので、実際に伐った量と取引額との相違が少なく、森林の状況を見ながら、山主立会いのもと、売買契約を交わすため、後々のトラブルも少ないという。

施業現場の集約化が搬出率の高い作業道づくりを可能に。

 鈴木木材には、経営の効率化と合わせて大切にしていることがあります。それは、山主の立場に立って施業を行うことです。
 「間伐に関しても、できる限り山主様のところに足を運び、山主さんが考える手入れ後の山のイメージを汲み取り、納得していただいてから施業を行ったり、立りゅうぼく木買い(※2)をするようにしています。施業後、山主さんに『きれいになったね』と言っていただけることが何よりもやりがいを感じます。祖父や父(社長)が地元の山主さんたちと長い年月をかけて信頼関係を築いてきてくれたからこそ、現在もこのように継続できているのだと感じます。今後も信頼関係を大切に引き継いでいきたいと考えています」と翔吾さん。

 また、現在は、施業の現場を集約化することにも力を入れています。

 「今までは1軒入ったら1軒だけの仕事という形でした。でも今は何軒かをまとめて作業しています。現場を集約することで山に無理のない作業道を作ったり、木材搬出などの作業効率を向上することが可能になります」

 集約化によるメリットはそれだけではありません。

 「近年では山主の世代交代などによって、所有している山林や境界の分かる人が減り、所有者でも自分の山を分からないということが少なくありません」。そういった場合、鈴木木材では集約化のための提案を行うと言います。

 「地域活性化に貢献できたらとの思いから、集約化による共同での手入れを提案することもあります。分からなくなってしまった境界の調査のきっかけになったと、手入れ以外にも喜んでいただけることも増えてきました」

 昔に比べて、茨城の林業は全体的に若い林業従事者が増えてきています。若い力を中心に、将来の林業の姿を変えようと奮闘する事業所があることを知り、活気ある現場の空気に触れたことで、茨城の林業が変換の時を迎えていることを実感しました。

 このように若い従事者が増え、木材の需給が高まれば、人口が減少する山村地域に新たな産業と雇用が生まれ、地域活性化につながるのではないでしょうか。

 未来の林業を担う若い力に大い期待したいと思います。

ソロー通信第5号 2016年9月発行

  • ソロー通信茨城版 第4号