森を考える ~ソロー通信~ 第4号

[今月の森人]斉藤ひろ子さん(さんぶ木楽会会長)

「山武の森林・林業と向き合い、女性の視点を生かして整備活動しています。チェーンソーだって使いこなしていますよ」

非赤枯性溝腐病に冒されたサンブスギを間伐して山をきれいにするのは斉藤さんたちの最優先作業である。

チェーンソーなどの機会を使って山仕事をしている女性グループはまだまだ少ない。
発足当初は7名でしたが、現在会員は15名まで増えました。
千葉県山武地区で今から10年前に林業に携わる女性たち7名で発足したのが「さんぶ木楽会」。昨今、林業女子が注目されているが、「私たちはその走りのようなもの(笑)」と会長の斉藤ひろ子さんはおっしゃる。会員は現在15名。活動と山に寄せる思いをうかがった。

――女性の林業グループを発足させたきっかけを教えてください。

 「山仕事は体力的にも厳しいため、これまで女性は補助的役割を任されていましたが、山武地区は平地林が多く、県南の森林に比べて女性でも山で作業しやすい地域です。平成18年6月に千葉県山武農林振興センターの呼びかけもあって、地域の荒れた森林をなんとかする一助になればと、県下では3番目の林業女性グループとして発足しました。発足当初は7名でしたが、現在では15名まで増えました。昨今、林業女子が話題になっていますが、私たちは10年前から活動してきた、いわばその走りのような存在です。
 会の名前は山武杉の「さんぶ」と、木を楽しむ「木楽」の組合せ。活動を長続きさせるために「肩肘張らずに気楽にやろう」という思いをこめて名づけました」

――さんぶ木楽会の皆さんは全員が林業経験者なのですか?

「発足当時の会長の手島芳枝さんは、林家に嫁ぎ約40年間ご主人と芝山町で林業を営んでおられた方で、林業技術の普及や林業後継者の育成指導を行う「指導林家」の認定を受けています。現会長を務める私も、30年間千葉県森林組合で働いた経験をもつ「指導林家」です。副会長の平快子さんは「林業士」という若手林業家です。それ以外のメンバーは林業経験者ではなく、森林・林業に関心を持つ30代から70代までの幅広い年齢層の集まりです。日頃はお勤めをしている方も多く、地元ばかりでなく、東京から参加する人もいて、個性豊かな15人の姉妹のようなグループです」

――どのような活動を行っているのでしょうか。

「女性の会というとクラフト制作が中心のグループも多いのですが、私たちは地域の山仕事を請け負っています。主な作業は森林の枝払いと下刈り、間伐などです。私たちのようにチェーンソーなどの機械を使って山仕事をしている女性グループはまだまだ少ないんですよ。
  収入源確保のために、山仕事はもちろん、間伐材を活用したクラフト作品も手がけています。サンブスギの箸は山胡桃の油で磨いて仕上げるので、口に入れても安心して使っていただけます。優しい手触りも人気です。クスで作ったブロック状の防虫剤、山椒のすりこぎ、銀杏のまな板、雑木のカスタネットと、会員の増加に伴ってアイディアも増え、さまざまな商品が生まれています」

――今後の抱負をお聞かせください。

「山の整備にあたっては、枝打ちはのこぎり、下刈りは刈払機、間伐にはチェーンソーと、安全第一を心がけながら、女性でも主体的に機械作業を担っていきたいですね。女性ならではの丁寧な仕事で地域の皆さまに喜んでいただけるのが私たちの願いです。同時に山の恵みを活用した作品を通じて、木の素晴らしさ、木の温もり、木を楽しむということも伝えていければと思っています」

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]千葉編 連載第1回:かつて、多くの富をもたらした千葉県の森林が抱える問題と課題…。

上総地方の最高峰である鹿野山からの眺望。

江戸時代には江戸の森林資源の供給地として、大正時代には「生ける貯木場」と呼ばれるほどに繁栄していた千葉県の林業。ブランド材のサンブスギや薪炭は、時代の変化に応じて、人々の生活を支えてきました。
ですが、現在の千葉県の森林は減少し、それとともに林業も衰退しています。
なぜ、このような状況になってしまったのでしょうか?
今回は、その問題と課題をひもといていきます。

久米成佳(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)
  • [図1]2つの計画区
  • [図2]千葉県の森林の内訳

森林面積――千葉県内の森林面積はおよそ15万8千ヘクタールです。県土の約1/3が森林ということになりますが、森林率30.6%は全国平均の半分以下の数値です。

 行政的には【図1】のように、北と南で二つの森林計画区に分けられています。市原市、長南町、睦沢町、一宮町より北は千葉県北部森林計画区、それらの市町村界より南は千葉県南部森林計画区として管理されています。南部の夷隅(いすみ)・安房(あわ)地区、君津(きみつ)地区は森林率50%を超えていますが、北総地区は数値が軒並み低く、中でも都心に近い東葛飾地区は5.7%にとどまっています。

 森林面積は年々減少しており、過去5年間で3千54ヘクタール(1.9%)減っています。これは、工場や事業所、宅地の造成などの林地開発の進行が主な原因に挙げられます。

国有林と民有林――千葉県の全体の森林面積のうち、95%は民有林で、その面積は約15万ヘクタールです。国有林は7千7百ヘクタールで、全体の森林面積の4.9%しかありません。千葉県の 民有林は、会社や社寺、個人が所有する私有林の割合が高く、89%(14万1千ヘクタール) を占めています。私有林率の高さは、全国で2番目となっています。

 【図2】からは、民有林の約半数は天然林であることがわかります。人工林の割合は39
%で、この数値は全国平均の41%を僅かに下回っています。人工林を樹種別に見ると、スギの割合が81.6%と一番多く、ヒノキ11.9%、マツ5.3%、クヌギ1.2%と続きます。

 人工林の林齢構成は、40年生以下が12%しかなく、41年生以上が88%に上ります。20年生以下で見ると、その割合は僅か2%しかなく、これは全国平均6%の4割程度です。全国的に見ても、かなり成熟した森林であることがわかります。

  • 左/畑と林が混在する山武林業地の林相風景。
    右/昭和の植林作業風景。

 国有林のほとんどは、南部森林計画区に集中しており、北部森林計画区は44ヘクタールしかありません。そのうちの41ヘクタールは銚子市に固まっています。

日本の首都を支えてきた千葉県の森林の歴史。

 江戸時代に江戸の首都機能が整備されると、人口が増大し膨大な木材やエネルギー源が必要になりました。そこで、サンブスギや佐倉炭、久留里炭など房総の森林資源は、江戸の需要を満たすために利用されるようになりました。

 大正時代に入り、経済恐慌と輸入木材関税率の改正による輸入材の増加により、国内全体の木材の産出は停滞。
関東大震災で輸入材の需要がますます高まっていきます。

 昭和の高度経済成長期には、京葉臨海工業地帯の造成が始まり、団地や住宅が次々に建築されます。そのため、建材の需要は急激に増加していきます。しかし、この急激な需要の増大は、積極的な植林と、北米材などの輸入を促すことになり、木材の価格は下落してしまいます。

 更に、国民の生活水準が変化していくのと同時に、林地の開発が進み、森林は減少していきました。

  • 間伐整備された美しいサンブスギの森林。
  • 右/健康的なサンブスギは、正円形で美しい淡紅色が特長。
    左/非赤枯性溝腐病に蝕まれたサンブスギは、朽ちて溝ができ、断面がハートの形状になっている。
千葉県のブランド材・サンブスギの危機。

 かつての千葉県の林業繁栄は、サンブスギの存在なくして語れません。サンブスギとは、山武地方において育てられてきた、挿し木スギの一種です。250年以上も前から、挿し木造林の技術とともに受け継がれてきました。

 サンブスギは、木目がまっすぐ通る「通直」であり、断面は正円に近く、中身がぎっしりと詰まっているのが特長です。見た目も淡紅色で美しいので、昔から木材としての価値が非常に高く、建具や船の建材として使われてきました。

 しかし、現在このサンブスギが危機的状況にあります。サンブスギの林が、非赤枯性溝腐病に蝕まれているのです。非赤枯性溝腐病とは、チャアナタケモドキという担子菌が引き起こす病気で、感染した木は幹が腐朽して溝ができ、木材としての価値が低くなってしまうという、林業従事者にとって恐ろしい病気です。

 大きな被害をもたらした最大の原因は、サンブスギが非赤枯性溝腐病にかかりやすい品種だったことです。しかし、この病気は植林後20年程度経過しないと被害の有無がわからないため実態の把握が遅れました。

 さらに林業従事者の減少も病気の蔓延に拍車をかけました。この病気の病原菌は枯れ枝から侵入します。木が大きくなる前に枝打ちや間伐などの手入れをしっかり行って病気の木を除去していればここまで被害が拡大することはなかったのですが、人手が足りず、病気の木や枯れ枝を林の中に放置せざるを得なかったのです。

 このように、千葉県が誇ったブランド材・サンブスギは、大変な危機に陥っていますが、この病気への対策がないわけではありません。被害林への根本的な対策は、感染した木を切り倒し、新しく木を植え替えること、つまり森林の更新をすることです。

 感染した木は変形しているので、木材として活用できるところは利用し、これまでは廃棄されていたそれ以外の部分も、エネルギー源としてバイオマス発電やペレットに有効活用する取り組みが徐々に始められています。

 千葉県農林総合研究センター森林研究所では、病気に対して強い抵抗力を持つクローンを選抜し、その種苗を広めていくという対策も練られています。長い年月が必要になりますが、この対策が広まれば今後同じ病気に苦しむことはなくなるでしょう。

 千葉県は、森林が減少している一方で、蓄積は5年間で4.5%(120万5千立方メートル)増加しています。つまり、活用できる森林資源のストックが、眠ったままの状態になっているのです。この蓄積には、病害を受けたサンブスギも含まれます。いずれの問題に対しても、林業の復興と丸太の有効利用をすることが、最優先に取り組むべき課題であるといえます。

[日本の森の明日を考えるための基礎知識]茨城編 連載第4回:森林資源の活用が進む茨城県の人工林で、今何が行われているか。

美和木材協同組合の国有林の間伐作業の現場。狭い作業道を、大型の林業機械が何台も行き交う様子は圧巻。

全国的にも人工林率が高い茨城県では、現在、その多くが、樹齢50年の伐採期を迎えています。
ひと昔前は、チェーンソーで1本1本伐っていた伐採の方法も、時代とともに移り変わり、現在、茨城県の国有林では、高性能林業機械と呼ばれる大型重機での伐採が行われています。
若い作業員が自由自在に重機を扱い、誇りを持って作業に当たる伐採現場は、活気に満ちています。

中嶋栄子(ライター)/千葉慶一(小社ソロー事業部)
国が進める列状間伐は大型重機による効率化の象徴。

 茨城県の森林の約24%は国有林です。そのうちの7割以上が人工林です。人工林の整備は、地じごし拵らえ、植林、下草刈り、除伐、間伐、主伐というのがひとつのサイクル。民有林の森林整備を担っている森林組合に対して、国有林の整備作業を請け負っているのが、協同組合や会社組織などの民間事業体です。

 茨城県では民間の林業経営体は1千778社あります。民有林も国有林も、その作業の流れに大きな違いはありませんが、国有林は、森林整備の集約化や、林道・作業道等の高密度路網の整備、高性能林業機械の導入などと合わせ、「列状間伐」の普及を進めています。

 優良木を残すため、山全体を見て、成長の思わしくない木や必要でない木を見極め、選んで間引きするのが、これまでの間伐法である定性間伐。それに代わり、伐る木を選ばず、山の斜面に沿って2列や3列まとめていっきに伐採する方法を、列状間伐と言います。民有林ではそれぞれの現場で状況が異なるため、あまり実施されていませんが、国有林のような大きな面積の山林では、列状間伐が主流になっています、木を選ぶ作業の手間が省け、コスト削減に有効な手段と言われています。

 列状間伐は、茨城県のような、あまり急峻でない山林には向いているとも言え、国有林の現場では定着しています。林道や作業道を整備して、高性能林業機械と呼ばれるハーベスタ(伐採、造材)やフォワーダ(運搬・上写真)などの大型重機を入りやすくすることで、県産材の安定した供給と持続可能な森林経営を目指しています。

 今回は、常陸大宮市で数社の製材工場から組織された美和木材協同組合と高萩市の佐川運送の2事業体の作業現場にお邪魔しました。

  • [図1]山の仕事
  • 美和木材協同組合の理事長、川西正則さん(写真中央)。丸太をつかんで寄せ集めるグラップルなどを使いこなし、班体制でチームワーク良く作業を進める
  • [図2]茨城県における高性能林業機械の保有台数の推移
国有林の作業は大型の林業機械の導入が不可欠。

 美和木材協同組合の現場では、列状間伐の作業中でした。国有林の作業現場の特長は、大型の林業機械が充実していることです。美和木材協同組合の理事長、川西正則さんによると、平成に入って作業員の高齢化が進み、事業継続が困難になったときもあったそうですが、ハーベスタやフォワーダなど、作業効率が高く、身体への負担が少ない高性能林業機械の登場で、事態は好転。高校生など若い世代が入社するなど、林業の現場に明るい変化が現れました。

 伐採作業は山仕事のなかでも危険な作業です。近年は大径木の伐採も増え、機械化によって安全性が高まっているという面もあります。若手作業員のアイデアをもとに機械メーカーと共同で作業機械を開発するなど、現場の声が反映される職場環境も実現しています。

 「企業の緑化活動のお手伝いや、地元美和での、『木の駅プロジェクト美和』への参画など、地域貢献にも努めています」と川西さん。『木の駅プロジェクト美和』とは、森林整備と地域経済の活性化を目指した常陸大宮市の有志による取り組みで、山に放置された残材を「木の駅」に出荷することで、地元地域の商店で使える「モリ券」という地域通貨が発行されるシステム。山をきれいにして、町も林家も元気になる。これからの山との付き合い方の理想的なかたちと言えます。

  • 家業を受け継ぐ佐川巧さん。伐採と、一定の長さに木を切り揃える機能を合わせ持つ列状間伐作業の主力重機、ハーベスタを巧みに操っている。
若い世代が茨城の森林を変えていく。

 高萩市の佐川運送は、丸太生産量では県内随一。主に国有林の作業を請け負っています。こちらの現場も、列状間伐など、高性能林業機械による作業が中心です。
伐採された木材は、一定の長さの丸太に切り揃えられ(造材)、丸太の直径を測って印を付け、車に積み込んで山土ど場ばと呼ばれる一時置き場に運ばれます。そこで、次の業者に引き渡されていきます。

 担い手不足と言われて久しい林業の現場ですが、茨城県においては、いま、地元出身の若い世代の就業者が増えています。どの現場でも、若手作業員が明るく元気に、そして自分の仕事に誇りを持って作業にあたっています。伝統や熟練の技といったイメージの強い山仕事に、機械を自由自在に操る若者たちが新風を吹き込んでいます。

 佐川運送で林業機械を操っていた作業員は、佐川運送の社長の息子さんの佐川巧さん(32歳)。若い力によって、山仕事の風景は変わってきています。国で平成15年から始められた雇用支援制度「緑の雇用」事業による効果も期待されています。日本の山、茨城の山の未来を背負って立つ若い世代を後押しする仕組みを継続的につくっていくことが、山そのものを守ることにも繋がっていくのです。

ソロー通信第4号 2016年2月発行

  • ソロー通信茨城版 第3号