森を考える ~ソロー通信茨城版~ 第2号

[今月森人]中野林平さん 77歳(常陸太田市)

「山は気の長い博打のようなもの。そこで50町歩の山を維持するための資金源として、山のクヌギでシイタケ栽培をしてきました」

中野林平さん 画像

樹齢15年、直径20センチほどのクヌギが
中野さんのシイタケ栽培のホダ木になる。

発生(発芽)して、一週間ほどで収穫できる大きさになる。菌をホダ木に植え込んで本格出荷まで3年近くかかる。 ホダ木から発芽したシイタケ
中野林平さん 画像 昭和40年代まではシイタケ栽培と並行して炭も焼いていたと語る中野林平さん。
ホダ木を並べる場所は冬暖かく南向きの山林の中が適している。場所によってホダ木の組み方を変えることもある。 ホダ木 画像
中野林平さんは江戸時代からつづく山持ちだが、「いまやシイタケ屋ですよ」と笑う。クヌギを使ったホダ木からは、毎春、肉厚の大きなシイタケがどっさり収穫され出荷される。山を維持する資金を確保するのも山持ちの責任である。

――中野家は林平さんの代で17代目と伺いましたが、代々林業を続けてこられたのですか。

「慶長7年(1602年)に中野家の先祖が小菅村に落ち着きました。徳川の代になってからは、水戸藩で代々役職を務めるとともに材木商を営み、那珂湊から江戸に出荷していました。山を相当もっていて手広く商売をしていたと聞いています。しかし、祖父が事業に失敗して、この郷一の杉山をすべて伐って弁済にあてました。古い木が一本もなくなった山を引き継いだ父は、苦労してようやく植林を終えたのですが、私が4歳のときに40歳で亡くなってしまいました。父の死後は出入りの人たちに管理を手助けしてもらい、高校卒業後に17代目の当主になりました」

――中野さんの代になって、シイタケ栽培を手掛けるようになったのですか。

「そうです。私は50町歩(約50ヘクタール)の山を受け継ぎましたが、山持ちでありつづけるためには、山を持ちこたえるだけの構え(資金)がなくてはなりません。でも本当に木がお金になって手元に入るのは50年後でしょ。しかも、将来の山林の価値は見通しがつかない、いわば気の長い博打のようなものです。そこで、資金源を確保するために、親父が炭焼きのために植えていたクヌギを伐ってホダ木にしてシイタケ栽培を始めたのです」

――シイタケ栽培に使っているクヌギは、もとは炭のために植えられたものだったんですね。

「茨城の炭は、備長炭ほどではないけれど、昔はけっこう有名でした。私も昭和40年代まではシイタケと並行して炭も焼いていました。やめたころは1俵350円だったかな。当時、灯油が台頭して炭のコンロから石油コンロになり、それからガスになった。これも時代の趨勢ですね」

――シイタケ栽培について教えてください。

「菌を植え込むホダ木に使うのは15年くらいのクヌギが主です。それ以上大きくなると重くて腰がまいってしまうし、皮が厚くなって発生量も少なくなります。ホダ木1本に20ヵ所くらい穴をあけてシイタケの菌を植え込み、ヨロイ伏せという組み方で山に伏込みます。3月に植え込むと、翌々年の秋には収穫して出荷できます。ホダ木は2年くらい経つとシイタケが生えなくなるので、上下を入れ替えて刺激を与えます。ホダ木を組むのも入れ替えるのもなかなかの力仕事です。ホダ木の寿命は約5年。役目を終えたホダ木はそのまま土に返すと、それがクヌギ林の栄養になります」

――クヌギなどの広葉樹には、針葉樹とはまた違った利用価値があるんですね。

「それだけじゃない。広葉樹の腐葉土は栄養豊富だから、森の腐葉土に含まれる養分が川から海へ流れていき、海中のプランクトンを育て、それを餌にして魚が育つという自然のサイクルにも大いに貢献しています。だから、いま、山へ広葉樹を植えようという活動が広がっています。常陸太田にも、久慈浜など海の人たちが植林や下草刈りの手伝いにきてくれますよ」

[茨城の森の明日を考えるための基礎知識]茨城県産の木材の生産と販売の現状。手間ひま掛けて育てた木はどのように流通しているのか?木材市場の現場を直撃。

宮の郷木材流通センター 画像写真は常陸大宮市の『宮の郷木材流通センター』の原木市。スギ、ヒノキの大経木も入札にかけられる。

関東平野の東北部に位置する茨城は平地が多く、
居住可能面積の広さでは
国内ナンバーワンと言って過言ではありません。
首都圏にも近く、交通の利便性にも優れた土地柄です。
つくばエクスプレスなどの開通による
県南の住宅需要も見込まれています。
首都圏内に取り込まれる茨城県南地域の木材需要は
今後益々、高まると期待されています。
ところが県産材の価格は降下傾向をたどっているのです。
その現実の取り引き現場を訪ねてみると…。

前田陽一(ライター)/千葉慶一(ソロー茨城)
  • [図1]木材の流通の流れ
林家が育てたスギやヒノキは、多くの人の手を経て住宅の素材になります。

 最初に私たちの家や建築物の元になる木材の流通過程を追ってみましょう(図1参照)。

 山林や平地林を所有している「林家」と呼ばれる、いわゆる「木こり」の人たちは、下草刈りから枝打ち、間伐材の伐採など、木材の成長へ向けて地道な作業を続けています。

 やがて伐採に適した樹齢を迎えたスギやヒノキは素材業者によって伐採されます。

 素材業者は民有林や国有林とも作業を受け持ち、機械化された作業が中心です。

 伐採された素材の原木(皮のついた状態)は最初に、製材所が原木を入札するため県森林組合連合会などが主催する原木市場で競りにかけられます。そこで製材所が素材を見極め、丸太のままの原木を買い取ります。茨城県内では茨城県森林組合連合会が主催する市場は4カ所で開かれています。原木市場で扱われる原木の7割はスギ、残り3割がヒノキとなっています。

 原木を出荷するのは平成25年度で民間企業が48.7%、国有林34.4%、森林組合などが16.9%です。その販売先は県外が約6割で残り約4割が県内となっています。

 製材所に買い取られた原木は、建築用として、適材適所さまざまに加工され、製材品を扱う木材市場へと出荷されていくのです。

  • 木材市場 画像木材市場では材木店の問屋などが入札に参加して柱材などを手に入れる。
茨城県内の木材需要の9割強が
建材などの製材用です。

 原木市場では県内外の製材所が入札に参加します。県内の木材需要の93.9%が建材などの製材としての需要です(茨城県林政課発行の「平成25年木材需給の現況」より)。県内最大級の規模を誇る宮の郷木材流通センター(常陸大宮市宮の郷)では、通常月に2回、競りが開催され、県内の中小の製材業者のほか、県外の大手製材業者が良質の原木を手に入れようと積極的に入札に参加しています。

 原木市場では、原木の太さや質を見極めて選別され、原木の直径16~28㎝の柱材に適したものや28㎝以上の中目材、16㎝以下の小径材など、用途に合わせた原木が製材業者へ引き取られていくのです。

 製材所できれいに加工された木材は、木材市場の競りにかけられます。現在は競りの日以外でも購入することができますが、その木材を買えるのは材木店のみです

 柱や板材、垂木などに加工された木材は競り落とした材木店に引き取られ、住宅建設などに携わる工務店などの注文に応じて販売されます。

 現在、木造住宅30~35坪の家(標準2階建て)を建てるのに5立方メートルの木材が必要とされています。材木店はオーダーに合った柱材や板材などの木材を仕入れる必要があります。

 木を育て、実際の家の素材となるまでにはこのような多くの過程を経ているのです。

  • [図2]茨城県における新設住宅着工数
  • [図3]茨城県の木材供給と木材価格の推移
昨年の消費税増税後、
住宅着工数の減少で価格も低迷。

 茨城県内における新築住宅の着工数を見てみると、【図2】のように平成2年をピークに減少傾向にあります。そうした中、木造住宅の着工数も伸び悩み、木材の販売価格の低迷につながっています。

 平成27年4月現在、茨城県における同26年度の木材需給の状況を示す資料はまだ発表されていませんが、昨年度の状況について、県森林組合連合会の會澤義昭代表理事専務は次のように話します。「25年度は消費税の引き上げがあり、住宅建築の駆け込み需要がありましたが、昨年度はその反動で一気に需要が落ち込んでいます」

 また、県産材のおよそ50%の製材品を扱う「茨城木材相互市場」(水戸市渋井町)では、月2回行っていた競りも今年度から月1回に減らすことになりました。

 同市場の取締役木材営業部長の鈴木祐二さんは「茨城県産材のグレードは高い。雪もなくそれなりの寒さもあり木質が詰まっていて強度にも優れている素材のメリットは大きい」と胸を張ります。

 しかし、鈴木さんは「以前は市場の競りでしか木材は買えませんでした。そこで優良な木材を手に入れようとしていたのですが、現在はいつでも買えるようになりました」。高値で競り落とす必要性がなくなり、買い手にとっては買いやすい状況と言えますが一方で、価格競争が激しくなってきている現状を示唆しています。

 茨城県産の木材は品質も高く、住宅建材に適した優良材です。しかし流通過程では、平成19年にベイマツの大手製材工場が稼働するなど県内における外材への依存率は高くなっているのが現状です。【図3】のように下落傾向にある県材価格を好転させるためには、外材に左右されない確かな需要の確保が求められています。

 そうした中、国では間伐材の利用促進を図るため、平成23年度より間伐材の補助制度の対象を樹齢35年から60年まで引き上げました。木材の安定供給や産業の活性化、長期的な森林の育成などに対する取り組みが行われているのです。上流・下流の対策だけでなく、その中間産業の潤滑を促す行政の役割は、今の日本の林業にとって、ますます重要になっています。

ソロー通信第2号 2015年5月発行

  • ソロー通信茨城版 第1号