森を考える ~ソロー通信茨城版~ 第1号

[今月森人]荷見信孝さん 43歳(常陸太田市)

「仕事はキツイけど自分の好きなように山をつくれるので、スケールの大きい盆栽をやっているみたいな愉しさがあります」

荷見信孝さん 画像

切り出した材木を運び出す荷見さんの作業道は
幅2メートルでつくられている。

山で食べていこうと思ったら、作業道をつくり、つねに手入れを続けることが必要と語る荷見さん。 荷見信孝さん 画像
荷見信孝さん 画像 林業は苗木を植えてからお金になるまでに50年・60年以上かかる長いスパンの仕事だ。
茨城のヒノキをブランド化したいと目標を語る荷見さん。寒いところで育つので、土台に使うと最高とのこと。 荷見信孝さん 画像
信孝さんは、県外にもその名を知られた茨城を代表する「林家」(りんか)荷見泰男さんのご子息。2007年7月に63歳で急逝された泰男さんのあとを継いで、毎朝8時から山に入る暮らしをつづけて今年で8年め。それでも、まだまだひよっ子と謙遜される。

――山を所有しているだけの人は山主、所有している山で林業を営み生計を立てている人が林家……この定義でよろしいですか。

「いいと思います。こまかく言うと、10アール以上の林地を持つ者という条件もついていたようです」

――日本の林家は農家以上に経営がきびしいと聞きますが。

「うちの山は作業道を父が沢山つくっておいてくれたのでやっていけますが、わが国の山はインフラが遅れていてあまり作業道はつくってありません。山で食べていこうと思ったら、まず作業道をつくるところから始めないといけないし、つくった作業道は放っておくと崩れてしまうのでつねに手入れをしないといけないし、その辺りの入り口の設計は国がきちんとやってくれないと個人の努力だけでは限界があります」

――一過性の補助金くらいではムリだということですね。

「わが国の山は戦後の住宅不足を解消するために国の政策で成長の速いスギを拡大植林していったのですが、そのあと、放置されてしまうんですね。きつい林業よりもラクな仕事で稼げる高度成長の時代になったあたりから急速に日本の林業は衰退していきました。林業は長いスパンの仕事です。苗木を植えてからおカネになるまでに50年60年かかりますからね。だから林業やってる人はしぜんと子どもの教育におカネをかけるようになるんです。その結果、子どもたちは医者になったり、商社マンになったりして、山に戻ってこなくなる(笑)。私も8年前まではサラリーマンでした」

――それでも、信孝さんのように戻って続けていらっしゃる人もいます。

「やり始めたらやめられなくなる愉しさがあります。自分の好きなように山をつくっていけるので、スケールの大きい盆栽をやっているみたいな愉しさ。春は植林、夏は下草刈り、秋冬はもっぱら間伐と四季に合わせたホビーみたいな感じがあります」

――当面の目標は何ですか。

「茨城のヒノキをブランド化したいと思っています。うちで切ったヒノキは常陸大宮の市場で〝八溝材〟として扱われてきましたが、北限のヒノキとして定着させていきたいと考えています。この辺りのヒノキは寒いところで育つのでとても堅くて、土台にしたら最高だと大工さんも言っています」

――私どもはその間伐材で出てくる曲った木や細木をペレットにさせていただく仕事を始めたのですが、間伐のルールというか、周期みたいなものはあるんですか。

「個人で違うと思いますが、私は10年で30%の間伐を目標にしています。間伐材がペレットの原料として買っていただけると知ったら、皆さん、熱心に間伐されるんじゃないですか。これまでの間伐材はおカネを払って捨ててもらっていましたから」

[茨城の森の明日を考えるための基礎知識]「美しい森林」をつくる可能性がもっとも高い県は、茨城県です。なぜかというと……。

石岡市 画像写真は石岡市(旧八郷町)。

美しい森林は、木を植え、育て、伐って利用する、再び植える…この「緑の循環システム」が機能しつづけることで維持されます。
そして、このような「美しい森林」をつくれる可能性がもっとも高いのが茨城県だと私たちは考えています。
その根拠は、茨城県の森林率が全国で2番めに低い
30.7%だからです。
つまり、茨城県は、平地の面積に比べて森林の面積比率が全国で2番めに小さい。
1番めは大都市の大阪ですから、実質は「1番めに森林率が低い県」と言っていいでしょう。面積比だけで言えば「美しい森林づくり」にもっとも有利な条件を持っていると言っていいのではないでしょうか。

前田陽一(ライター)/千葉慶一(ソロー茨城)
  • [図1]3つの森林計画区
  • [図2]茨城県の森林の内訳
茨城の人工林の6割はスギ。その多くは
樹齢41年以上で、伐採適齢期を迎えています。

森林面積――茨城県内の森林面積は18万7000ヘクタールです。このうち、全体のおよそ4分の3にあたる約14万2000ヘクタールが民有林で、国有林は約4万5000ヘクタールにとどまります。

 行政的には、【図1】のように、県南の「霞ヶ浦」、県央の「水戸那珂」、県北の「八溝多賀」と、大きく3つの区域に分けられ、計画的に管理されています。

 これを「森林計画区」と呼びます。

民有林――戦後、積極的にスギ、ヒノキの人工造林が進められ、その蓄積が着実に増加しつつあります。

 【図2】をご覧ください。民有林の森林構成は人工林、天然林、竹林、無立木地(むりゅうぼくち)の4区分に分けられます。

 茨城県における面積の内訳は、人工林54.1%、天然林41.1%、竹林1.6%、無立木地3.2%(木が生えていないこの面積には伐採跡地も含まれる)となっています。

 人工林では、6割以上の面積にスギが分布し、そのおよそ85%が樹齢41年以上の高齢林です。また、天然林のほとんどは雑木ですが、マツやクヌギなどの高齢林もわずかですが見られます。

国有林―― 森林構成をみると、「霞ヶ浦計画区」では、人工林がおよそ6割で、その約半分をヒノキが占めています。樹齢21年以上40年以下が4割と、間伐適齢林が多いのが特徴です。

「八溝多賀計画区」では、人工林の占める割合が8割以上に上り、樹種別ではヒノキとスギがそれぞれ4割ほど分布しています。「霞ヶ浦計画区」に比べ、樹齢41年以上の木が6割以上と多く、利用期(伐採期)を迎える樹木が多くなっています。

 人工林率が8割以上と高い「水戸那珂計画区」では、スギ20%、ヒノキ50%が生育しており、齢級別では、幼齢林の5%に対し、樹齢41年以上の高齢林が68%と高く、こちらも伐採期を迎えています。

  • 森林保護の発祥地写真提供/関東森林管理局
ご存知ですか、森林保護の発祥地は
茨城県だったことを。

 ここで江戸時代の森林管理にタイムスリップしてみます。茨城県のもともとである水戸藩は、水戸から県北、栃木県の一部に所領を構えており、多くの森林を治めていました。藩の所有林は「御立山」(おたてやま)と呼ばれ、藩の用材の調達に利用されていました。その当時はマツ・スギ・ヒノキが重宝され植栽もするようになりました。

 一方、農民たちの民有林である「分附山」(ぶんづけやま)と呼ばれる森林や「入会山」(いりあいやま)と呼ばれる共同管理の森林もありました。

 これらには管理する役人がおり、植林や落ち葉の管理まで細々とした決まりがあり、放火などには厳罪が課せられました。彼らは森林を守るために下草刈りや枝打ちなどの作業を行い、畑作業と同じように森を育ててきました。しかし、それは次世代へと森を受け渡す息の長い作業なのです。

 そして時代は明治、大正へ。

 藩の管理は国の管理へと移り、「御立山」は「官有林」となり、国の管理下で森林の保全が行われるようになりました。

 そして昭和9年、全国植樹祭の発祥ともなった「愛林日記念植樹」が、桜川市真壁町の筑波山麓の山林で行われ、スギとヒノキが植樹されました。その記念碑が86年に建てられ、70年以上経ったスギ、ヒノキの美林の中に残されています(左写真)。

「愛林日記念植樹」は茨城県内で第5回まで開かれました。

 戦後の全国植樹祭は毎年開催されていますが、76年に大子町、05年に潮来市で開催されています。

  • 茨城の森林
伐採に適した樹齢は、「スギ40年、
ヒノキ45年」と言われます。

 いま、茨城の森林を民有林に限って調べると、人工林の樹齢別分布は樹齢36年生(8齢級)以上の樹が約75%を占め、「スギ40年、ヒノキ45年」の伐採期を迎えています。

 さらに、近年は、バイオマスへの関心も高まり、これまでの材としての需要だけでなく、活用の幅が広がっています。

 また、環境保全としての森林整備とあわせて、資源としての森林、つまり産業として林業を育てていくことも重要です。

 外材に押されて県内産の材の生産が厳しい状況に置かれる中、県内の農林家は優良な県内産の木材需給量を上げるために頑張っています。

 とくに県北を中心に昔ながらの林業を生業とする「林家」(りんか)は健在です。全国規模で見ると、民有林における林業就業者の雇用は、造林・素材生産業者としての森林組合、会社、個人が主体になっています。

「2010年世界農林業センサス」によると、茨城では保有山林規模が1ヘクタール以上の「林家」数は1万6千564戸を数えますが、その80%は保有山林5ヘクタール以下の小規模林家です。

「林家」以外の「林業経営体」数は、3ヘクタール以上の山林保有者または林業事業体が1778社。そのうち、個人経営体は約96%と高い比率を占めています。

 これは茨城県にかぎったことではありませんが、森林作業は小規模な経営体によって担われています。厳しい経営環境のもとで生産性の向上や省力化を図っていくためには、機械化の促進、森林組合の広域合併、個人の協業化・組織化などによる経営基盤の強化が課題だと言われています。(おわり)

ソロー通信第1号 2015年2月発行